2020年11月、小売大手の、米アマゾン・ドット・コムがオンラインで処方薬が手に入る「Amazon Pharmacy(アマゾン・ファーマシー)」の営業をアメリカで開始しました。この一報を受け、CSVヘルス、ウォルグリーンといった大手ドラッグストアチェーンの株価が大幅下落し、業界に激震が走りました。
一方、両ドラッグストアはアマゾン薬局への対抗策も着々と打ち出しています。現段階ではアマゾン薬局は米国のみの営業ですが、米アマゾン・ドット・コムが日本で処方薬販売への参入を検討していることが分かりました。
アマゾン薬局とは
アマゾン薬局は、ウェブサイトや専用アプリから処方薬を注文し、自宅に配送してくれる米国内向けサービスです。支払いは医療保険も適用できます。
まず、患者は加入している医療保険のほか、既往歴や定期処方薬などプロフィールを登録します。次に、医師にアマゾン薬局へ処方箋を送付するよう依頼します。日数がかかるものの、患者に代わってアマゾン薬局が処方箋を請求することもできます。
アメリカでは患者が加入する医療保険の種類により、処方薬の自己負担額や控除額が異なるため、アマゾン薬局は処方箋が届くと患者が登録した医療保険をもとにカバー可能な範囲を確認し、代金を請求します。同薬局によると、ほとんどの保険プランは対応できるとしています。クレジットカードやデビッドカードで支払を済ませると、処方薬が発送されるシステムです。
ー患者にとってアメリカ国内でのアマゾン薬局での役割
アマゾンプライム会員であれば、
- 2日以内での無料配送
- 無保険で薬を購入する場合、薬の割引クーポンが手に入る(ジェネリック医薬品が最大80%オフ、ブランド医薬品が最大40%オフなど、全国50,000を超える加盟薬局やドラッグストアでも利用可能)
有料オプションですが、オンラインヘルプ、電話でカスタマーケアにアクセスができたり、薬剤師が24時間年中無休で電話対応をしてくれます。
もちろん処方薬と一緒に、食品や雑貨の「ついで買い」も可能です。
日本では、中小薬局と組み、新たなプラットフォームを
日本では、電子処方箋の運用が始まる2023年に本格的なサービス開始を目指しています。
当面は、アマゾン薬局が直接販売はせず、中小薬局と組み、新たなプラットホームをつくる方向です。
中小薬局がアマゾンと組むことにより、立地に関係なく、ネット上で患者との接点を容易につくることができるため、店舗網を強みとする大手の薬局チェーンにとっては脅威となることでしょう。
消費者にとって身近なアマゾンが、本格的に処方薬販売を参入となれば、オンライン診療・服薬指導のニーズが高まり、海外に比べ遅れている医療のデジタル化が加速し、薬局業界に大きな影響を与えることになります。
ー来店不要、ネットで完結!家まで薬が届く流れ
- オンライン診療や医療機関での対面診療をを受けた患者は、電子処方箋を発行してもらい、アマゾンのサイト上で、薬局へ申し込みを行います。
- アマゾンのプラットフォームで患者のニーズや自宅との近さなどをもとに薬局を紹介。薬局は電子処方箋を元に薬を調剤し、オンライン服薬指導します。
- 調剤された薬は、アマゾンの配送網を使い、患者宅や宅配ロッカーに届けられる仕組みを検討してします。
医療機関や薬局まで足を運び、それぞれで順番を待つ必要がなくなるため、忙しい方や持病の薬を定期的に受ける必要がある方には、時間を短縮する大きなメリットがあるため、活用する人が増えると予想されます。
ー日本の大手薬局チェーンもオンライン薬局に取り組みを開始
日本企業も、同サービスを提供することは可能です。
アインホールディングスは、ビデオ通話で服薬指導を実施できるアプリ「いつでもアイン薬局」が開始、クオールホールディングスもクオール薬局全店で電話等を用いた服薬指導および薬の配達を採用、さらにイオンリテールが運営するイオン薬局は、2024年をめどに、処方薬の即日配送サービスを事業化する予定です。
アマゾンは、自前の会員基盤や物流インフラを活用することによって患者負担となる配送料を低く抑える可能性があり、配送料、配送時間においても競争を迫られることになります。
ーアマゾン薬局は日本の調剤薬局の脅威となるのか
診断から処方までの手間が少なく、薬局に立ち寄らずに自宅に薬が配送されるシステムは、WEBに抵抗感がない世代にとっては魅力的なサービスと言えます。
リフィル処方箋を利用すれば、さらに薬局へ立ち寄らずに薬が届くため、便利と考える人が多いことでしょう。
また在宅診療の推進によって、医師側がアマゾン薬局を推奨する可能性もあるため、今後の動向が気になるところです。
アメリカ大手ドラックストアチェーンの対応とは
ーウォルグリーンはどう対抗するのか
アマゾン薬局に対抗するべく、アメリカの大手ドラッグストアチェーンでは、オンラインサービスと並行して「実店舗でのサービス」を充実させています。
ウォルグリーンでは、実店舗での健康サービスの強化として、人気ダイエットプログラムを提供するジョニー・クレイグを併設する店舗を展開。
アメリカでは、人口の3分の1が肥満と言われています。ウォルグリーンは、深刻な社会問題である肥満、肥満による生活習慣病の改善を図る方向で、実店舗でのサービス向上を行っています。
また、大手スーパーと提携し、食料品の販売も一部店舗で開始。健康に配慮したミールキットなども購入することができ、食事も含め健康サービスを強化しています。
ー地域密着の健康拠点へ、CVSヘルスの「ヘルスハブ」
ウォルグリーンに次ぐ大手ドラッグストアチェーンのCVSヘルスは、ヘルスケア機能を充実させた「CVSヘルスハブ」店舗の展開を拡大し、サービスの幅を広げる方向です。
「CVSヘルスハブ」では、他職種を活用し幅広いヘルスケアサービスを提供しています。
栄養士や呼吸療法士などの専門家が常駐し、睡眠時無呼吸症候群(SAS)や糖尿病といった慢性疾患の管理をしたり、特定看護師(ナース・プラクティショナー)が常駐する簡易診療所「ミニットクリニック」が併設されているところでは、慢性疾患の管理・予防接種・軽い咽頭炎の治療なども行っています。
さらには、ヨガや栄養セミナーといったイベントを開催し、地域のコミュニティースペースとしての機能も拡充しています。
他職種連携によるヘルスケアサービスの充実や、地域に根付いて健康拠点として機能する等、日本のかかりつけ薬局に共通する部分があります。実店舗のサービス向上だけではなく、アマゾン薬局が「かかりつけ機能を有していない」という点でも差別化が図れています。
アメリカの大手ドラッグ2社は、ひとつの戦略として「実店舗のサービス向上」によりアマゾン薬局との差別化を図っています。
驚異的なアマゾン薬局ですが、オンラインで完結する、かかりつけ機能を有していない等、デメリットもあります。いずれ日本に参入する未来も遠くないかもしれませんが、アマゾン薬局が価値を発揮できない領域で、差別化を図ることがポイントになるでしょう。