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スタッフコラム

調剤薬局の市場動向について~2023年以降薬局業界はどう変わっていくか~②


第2回:財務視点から見る、薬局業界再編の考察

調剤薬局業界は、今までにない大きな転換期を迎えています。特に近年では年単位の薬価改定、ジェネリックの医薬品問題、対人業務へのシフトによる従業員の教育、ICT化の対応など、変化のスピードが速く、かつ経営課題の複雑化が中小薬局の経営に大きな影響を与えています。さらに、市場競争が激化し、業界全体が経営効率の改善を迫られている背景から、大手による市場の再編が進められつつあります。今回は連載形式にて、調剤薬局の市場動向について掲載いたします。

第2回となる本項では、引き続き、調剤薬局の市場動向を財務視点という切り口で考察を深めていきます。具体的には、厚生労働省が発表している医療経済実態調査のデータを過去10年分遡り、規模別に整理したうえでトレンドを把握していこうと思います。まずは、営業利益率から業界全体を俯瞰的に捉えたうえでコストに注目し、市場の変化や企業戦略がどのように財務データに反映されているかを見ていきます。

業界の理解を深めるポイントは、”点”ではなく、”線”で捉えることです。財務データの変化を見ることで、薬局経営がどのように変化をしてきたかを推測しながら、業界再編との関連性を考察していきたいと思います。

目次

結論:組織構造上の優位性が業界再編の原動力

最初に、薬局業界は規模の経済が効くビジネスであることが財務データから構造的に捉えることができます。さらに、店舗規模によって営業利益率やコストに明確な差があり、その差は今後も開いていく傾向がみられます。特に注目すべきは本社機能であり、20店舗以上の薬局経営は小規模薬局が構築しえない「組織構造上の優位性」をもって運営しています。その優位性こそが現在の薬局M&Aの原動力となって、業界再編の潮流を作り上げていると考察できます。

<要点>

  • 規模の経済が財務データから読み取れる
  • 店舗規模により営業利益率やコストに差が出ている
  • その差は今後も広がる流れにある
  • 本社機能の役割と強みが優位性のカギ
  • 組織構造上の優位性こそ業界再編の原動力である

調剤薬局における店舗数別の営業利益率比較

調剤薬局における店舗数別の営業利益率比較
(出典)医療経済実態調査データからCBコンサルティング社による独自分析

まずは、業界全体を俯瞰的に捉えるために営業利益から見ていきます。上記の表は、2011年~2020年における規模別(1店舗、2~5店舗、6~19店舗、20店舗以上)営業利益率の推移を表しています。年度によって乖離や異常値もあり、かつ論点をシンプルにするために時間軸を簡素化し解説していきます。

調剤薬局における店舗数別の営業利益率比較(短縮版) (出典)医療経済実態調査データからCBコンサルティング社による独自分析[/caption]

上表において、共通していることは以下の2点です。

① 営業利益率は下がり続けている

まず、直近10年平均、直近5年平均、直近3年平均と営業利益率が下がっています。端的に言えば、国の施策が財務データにシビアに反映されているといえます。つまり、新たな価値を生み出さなければ、業界価値は目減りし続けることが示唆されています。

② 規模が有利になりやすいビジネス

さらに表を見ると、規模が大きいほど利益率が高いことが分かります。学術的には「規模の経済が効く」と表現され、財務データからその特徴が確認できます。業界再編との繋がりを考えるとM&A活発化の背景は、この規模の経済が影響していると推測できます。言い換えると、規模の経済による利益率向上のために、M&Aによる買収などの拡大戦略を採用している薬局が一定数存在していると考えられます。

ここまでのコラムを読みながら、「調剤薬局は小売業だから規模の経済が効いて当然」と思う方がいらっしゃるかもしれません。しかし、財務データから構造的に事象を理解することは重要です。思考を止めずに、「薬局業界において、規模の経済は財務データ上、どのように表れているか?」というところまで深堀って考えていきたいと思います。

各コストは規模の経済が影響しているか

次はコストについて考えていきます。割合の高い順(医薬品等率>人件費率>その他経費率)に、まずは医薬品等コストの比率から見ていきましょう。

医薬品等率比較

調剤薬局における店舗数別のコスト(医薬品等率)比較 (出典)医療経済実態調査データからCBコンサルティング社による独自分析[/caption]

こちらも市場の流れを捉えるという趣旨から、以下のシンプルな表にします。

調剤薬局における店舗数別のコスト(医薬品等率)比較短縮版 (出典)医療経済実態調査データからCBコンサルティング社による独自分析[/caption]

まずご存知の通り、医薬品の購入価格は経営に影響を与えます。数%の価格変動は、営業利益に大きなインパクトを与え、その対象が20店舗以上ともなれば尚更です。確かに、各店舗の売上額や後発医薬品の取組効果など、単純比較できないポイントもあります。しかし、本質的に20店舗以上の薬局に価格交渉力があるのは財務データ上でも明らかです。

さらに、やや微妙な変化ですが20店舗以上の薬局では、医薬品等率は低下傾向にある一方で、他の薬局はその割合が低下しておらず、徐々に差が開いていることが分かります。最近はボランタリーチェーンや価格交渉代行サービスを利用する薬局も増えていますが、その恩恵は限定的であり小規模薬局の交渉力は以前と比較しても相対的に下がっているといえます

人件費率比較

調剤薬局における店舗数別のコスト(人件費率)比較 (出典)医療経済実態調査データからCBコンサルティング社による独自分析[/caption]

次は、2番目に割合が高い人件費にフォーカスしていきます。こちらも同様にシンプルな表にまとめます。

調剤薬局における店舗数別のコスト(人件費率)比較短縮版 (出典)医療経済実態調査データからCBコンサルティング社による独自分析[/caption]

上表からもわかる通り、人件費はさらに大きな差が出ています。この背景を詳細に説明すると今回の論点から離れてしまうので割愛しますが、薬局において人事領域は最大の経営課題と捉えて良いと考えます。特に、対人業務にシフトする薬局業界の方向性と既存の人事制度との間で、不整合が起きている薬局は要注意です。旧態依然の年功序列型人事制度を維持することは簡単ではありません。なお、当社においても、薬局特化の人事コンサル部署に日々多くのご相談をいただいております。薬局業界全体を通して、薬剤師市場の変化が起きている以上、人事戦略の見直しは必須であるといえるでしょう。

そうしたなかで、大手薬局チェーンは若手薬剤師の積極採用、目標連動型評価、再雇用における報酬適正化などが整備されており、人事戦略の差が人件費率の差となってデータ上に表れています。さらに、適切な人事制度が従業員全体に行き届くことによって、組織としての一体感や価値観の醸成、他社との差別化に繋がっていく好循環を生み出しています。今後は、調剤事務の活用やICT導入によってさらにその差が広がる見込みです。

その他経費等率比較

調剤薬局における店舗数別のコスト(その他経費等率)比較 (出典)医療経済実態調査データからCBコンサルティング社による独自分析[/caption]

最後は、その他経費等を見ていきます。いわゆる本社(本部)経費の部分になります。こちらも簡素化した図を使って説明していきます。

調剤薬局における店舗数別のコスト(その他経費等率)比較短縮版 (出典)医療経済実態調査データからCBコンサルティング社による独自分析[/caption]

特徴として、20店舗以上の薬局だけが10%を超え、かつ近年にかけて上昇傾向であることがわかります。他のカテゴリーではこのような動きはありません。

これは何を表しているのでしょうか。

調べていくと、本社経費の差こそ、規模の経済を支える「組織構造上の優位性」であるという仮説が出てきました。20店舗以上の薬局において、コスト割合が増えているなかでの「優位性」という表現が分かりづらいので解説していきます。

まず、本社経費は、各店舗の業務効率化や簡素化を担い、組織全体の生産性を上げる中心的な役割を果たしています。具体的には、薬価交渉、廃棄ロス、人員配置、採用、教育、店舗事務など多岐に渡るコスト抑制となります。そして、このコスト抑制効果は規模が大きくなるほど高まり、一店舗一店舗の積み重ねが小規模薬局には到底真似できない「組織構造上の優位性」へと進化していきます。結果として、先述した医薬品購入価格や人件費のコスト抑制に繋がり、最終的には営業利益率の差として財務データに現れているのです。

業界再編の本質は、コスト抑制と利益率向上の追求である

ここまでお話しした通り、「組織構造上の優位性」をもつ薬局が、旺盛なM&A市場の原動力となって業界再編の潮流を作り上げていると考察できます。さらに突き詰めて表現するなら、他社との「差」を生み出せる薬局が業界再編を推し進めているといえます。つまり、同じ店舗を運営しても、医薬品が安価で、人件費も割安で、調剤事務を活用しながら効率的なシステムを導入して運営する薬局の方が、市場の中で優位性を保ちつつ、さらなる拡大を目指して経営戦略を志向することができ、実際に行動に移しているというわけです。こうした一連の流れの結果、薬局業界の再編が進んでいるのです。

自社の強みや特徴はデータに出ているか

実は、薬局における規模の経済は「組織が大きい≒有利」という単純構造では言い切れません。規模に応じた部門が適切に機能することが、「構造上の優位性」としての”強み”となります。そして、その“強み”は財務データとして現れるレベルに昇華させなければなりません。部門や制度が形式的に存在しても内実、つまり財務数値などが伴っていなければ意味はありません。どれだけ立派な本社の体制があっても、機能や役割を果たさなければ経営を圧迫する原因になります。ぜひ、自社の財務データと比較しながら、今後の経営戦略の方向性を考えるきっかけとしていただければ幸いです。

今回は、薬局経営の差を財務データと一緒に見てきました。今回は20店舗以上の強みや差にフォーカスしましたが、小規模薬局の取るべき戦略や経営のノウハウについても、どこかの機会で発信できればと思います。

次回は「第3回:マクロ環境変化から見る、薬局業界再編の考察」をお送りします。

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